三日月代表のブログ

警備員という売れない哲学者がする仕事

大学生最後の年、暇ができた。家でダラダラすることが好きだった僕でさえも、暇だと感じるほどの暇の量だったため、僕は派遣のバイトをたくさんすることにした。

イベントの受付案内や工場の流れ作業に、力仕事。いろいろやった。

そしてその日も何かしらのイベントスタッフの仕事の依頼を受け、会場に向かう。

今日は何を任されるのかと思っていたら、その日の仕事は警備だった。ドアに人が入らないようにする警備だ。

 

案の定、暇だった。暇から脱したくてバイトを増やしたのに、暇でお金を稼いでいる。

その日のイベントはアイドルの握手会や、ライブイベントではない。ビジネスマン達のよくわからないプレゼン大会だ。おかしなやつが現れるはずがないし、ビジネスマン達も他のイベントスタッフに誘導されている。

誰も僕の守るドアに入ろうとしない。

警備というのはこんなにも暇なんだと実感しながら、他のドアを任された同士達の様子を見てみた。

僕の隣のドアを任されていたのは、40代あたりのおっさん。確実にイベントスタッフではなかった。

清潔感の無い制服。頼りなさそうな面。人生に疲れきった立ち姿。

どう見てもプロの警備員だった。

毎日こんな暇な仕事しているんだろうか、つらいだろうな、未来に希望を抱くこともないんだろうな、と僕は同情しながら見ていた。

しかしぼーっと突っ立っているように見えた警備員は、よく見るとなんかしゃべっている。一人であるにも関わらず、めちゃくちゃ口を動かしていた。

その時ぼくは、この警備員はただの警備員じゃないと思った。同時に、警備員の頭の中が無性に気になった。

この警備員、実はめちゃくちゃいろんなことを考えているんじゃないだろうか。

警備という暇をうまく利用して考え事をしているんじゃないだろうか。

考え事というよりも哲学をしているんじゃないだろうか。

哲学をしたいが為に警備員になったんじゃないだろうか。

もはや哲学者を目指しているんじゃないだろうか。

大学卒業後、地元の会社に勤め始めたものの哲学者というを夢を捨てきれなくて、会社を辞めて上京し、哲学者として一花咲かせようと必死に生きているんじゃないだろうか。

昼は警備員として働き、夜は路上で哲学を説いているんじゃないだろうか。

いつかメジャーデビューして、武道館でワンマン哲学を目標に精一杯頑張っているんじゃないだろうか。

そう思ううちに、彼の顔は希望に満ちた顔に変わっていた。

 

その日から、警備員に対して見る目が変わった。

街の至る所で何かを守る警備員。

彼らは、実は売れない哲学者かもしれない。